逢いたい夜は、涙星に君を想うから。


「その手紙……父親から」



「咲下のお父さん……?でも名字が咲下って書いてあるけど……」



「うち離婚して、あたしはお母さんに引き取られたけど、お母さんがあたしのために名字を変えなかったの」



離婚が決まったとき、あたしはまだ小学生だった。



名字が変わると、学校で色々と友達から言われたりするんじゃないかって、お母さんが心配して、



あたしの名字は離婚前も離婚後も“咲下”のままだった。



あたしにとっては、名字が変わることなんて別にどうだってよかったのに。



「手紙が来るなんて思いもしなかった……」



もう何年も会ってないし。父親は、ここの家の住所さえ知らないと思ってた。



手紙と一緒にお金も入ってた。



「お母さんが死んだこと、おばさんが勝手に父親に連絡してたの」



入院代も葬儀代も、お母さんの貯金だけじゃ全然足りなくて、



おばさんが父親に連絡してお金を出してもらったことを、あとからおばさんに聞かされた。



「父親なんかに知らせたくなかった。お母さんとあたしを捨てた人なんかにお金なんてもらいたくなかったよ……」



「咲下……」



「橘くんには話してなかったよね。離婚の理由。父親の不倫が原因だった……あれからお母さん……精神的に不安定になって……」



お父さんのせいで……お母さんは……。



そんな人にお金を頼らなきゃいけないなんて、あたしは自分の無力さにも嫌気がさした。



「つらいこと思い出させてごめん。もういいよ。何も話さなくていいから……ごめんな……」



橘くんはあたしの頭を優しく撫でてくれた。



早く大人になりたい……



誰の力も借りずに生きていけるくらい。



あの人を。



父親だなんて思いたくなんかない。



あたしたち子供が



生きてる世界は



なんて狭く息苦しいんだろう。
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