逢いたい夜は、涙星に君を想うから。




いつのまにか眠ってしまっていたことに気づく。



ふと目が覚めると、静かな暗い部屋の中。



おでこには冷たいタオルが乗っていた。



横を向くと、布団のそばの床で、



右腕を頭の下にして横になる橘くんが眠っていた。



そばには、氷と水が入った大きなボウル。



お皿には、橘くんが持ってきてくれたリンゴが皮を剥いて、食べやすいように小さく切ってあった。



橘くん……ずっとそばにいて、あたしの看病してくれてたんだ。



あたしは布団に横になったまま、橘くんの寝顔を近くで見つめる。



右手でそっと、橘くんの頬に触れた。



ヒヤリと冷たい頬。その頬をあたためたくて、手のひらをあてた。



胸が締め付けられる思いに、涙が溢れてくる。



彼のまぶたにそっと、キスをした――。



こんなふうに感じる

愛しさも切なさも



彼に出逢って知った



彼の優しさが



あたしの心を包み込んでくれた



彼と出逢う前のあたしには



きっともう……戻れない。



あたしは彼のそばに体を寄せ、1枚の布団をふたりの体にかけた。



彼の安らかな寝息の音。



あたしは、彼の頬に手をあてたまま、目を閉じる。



朝までもう少し。



もう少しだけ眠ろう。



あともう少しだけでいい。あたしに時間をください。







ねぇ、橘くん。



あたしね……



橘くんに言わなきゃいけないことがあるの。
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