逢いたい夜は、涙星に君を想うから。


橘くんが帰って、音のない静かな家の中。



床に座ったまま、ボーっと部屋の一点を見つめる。



“凜”



頭の中でお母さんの声が聞こえて、急に息が苦しくなってく。



「……ヒッ、ヒッ……っ……」



苦しくて瞼を閉じると、あの日のことが一気によみがえってくる。



薄暗い病室。



心電図の機械の音。



病院のにおい。



看護師の声。



お母さんの細い手の感触。



動かなくなった……お母さん。



「……ハァ、ハァッ……」



呼吸が速くなって、苦しい……。



もう嫌……早く……早く治まれ……。



あたしは胸のあたりをぎゅっと掴んで、床に倒れ込んだ。



深い悲しみは

何度だって



押し寄せてくる。



寂しさや苦しさ、恐怖を連れて。



「……ハァ……っ……ハァ……っ……」



呼吸がゆっくり出来るようになってきた。



しびれを感じる震えた手で、服のポケットの中から星砂のキーホルダーを取り出して握りしめる。



お母さんを失ったあの夜



星の見えない空の下で



橘くんは言った



『咲下……もういいんだよ』



橘くんが

あたしの手を握ってくれた



『泣いていいんだよ』



キーホルダーを握りしめた手を目元にあてると、涙がこぼれた。
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