逢いたい夜は、涙星に君を想うから。


――――――……


月曜日の朝。



久しぶりの制服姿。今日から学校へ行く。



コートを着て、マフラーを首に巻き、手袋もした。



それでも冬の朝は寒い。



吐く息も真っ白だ。



「はぁ……さむぅ……」



家を出て、少し俯いて体を震わせながら歩いていく。



「咲下っ」



その声に顔を上げると、アパートの前で彼が待っていた。



「え?橘くん!?なんで……」



「おはよー」



「お、おはよう……じゃなくて、なんで橘くんがここにいるの?」



橘くんは自転車に跨った。



「月曜から学校に行くって、このまえ言ってたじゃん?」



「それは言ったけど……」



「後ろ乗って」



「でも……」



「同じクラスなんだし。一緒に学校まで行こーよ」



そう言って橘くんは、あたしの腕を掴んで笑顔を見せる。



「なっ?」



橘くんの満面の笑みに、思わずあたしは頷いてしまう。



「さみぃーなー今日も」



「そだね……」



あたしは橘くんの自転車の後ろに乗った。



「咲下も聴く?」



振り向いた橘くんが、ブレザーのポケットから音楽プレーヤーを取り出して、片方のイヤホンをあたしの右耳に差しこむ。



「咲下は、どんな歌が好き?」



「あ……なんでも好き」



「ハハッ。了解」



プレーヤーをブレザーのポケットにしまった橘くんは、残った方のイヤホンを自分の右耳に入れた。



「んじゃ、レッツゴー」



「ふふっ」



橘くんは、あたしを自転車の後ろに乗せて走っていく。



ふたりで同じ音楽を聴いて



同じ景色を眺めて



同じ風を感じてく。



大切なこの瞬間を



目に焼き付けておきたい――。
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