逢いたい夜は、涙星に君を想うから。
教室に戻ろうと廊下を歩いていると、教室の中から男子たちの話し声が聞こえてきた。
「あれ?橘、どこ行った?」
「便所じゃね?」
「あれじゃん?咲下と一緒にいるんじゃねーの?」
え……?あたし……?
男子たちの会話にあたしの名前が出てきたことに驚いたあたしは、その場で立ち止まる。
「最近、橘と咲下ってなんか怪しくね?」
「よく隠れて一緒にいるよな」
あたしはその場から動かずに、教室にいる男子たちの話を盗み聞きする。
「付き合ってんのかな?」
「えーマジかよ?」
そんなふうに思ってる人がいたなんて……。
もし噂にでもなったら、橘くんに迷惑かけちゃう。
あたしのせいで、橘くんが困るのは嫌だよ……。
「付き合ってないっしょ。あれだよ、ほら……クラスにひとりぼっちでいるヤツとか、ほっとけないタイプなんだろ。橘って、前からそーゆーヤツじゃん」
「あーわかる。クラスみんな、俺の友達ーって感じだもんな」
ひとりぼっちでいるヤツとか……ほっとけない……。
「だよな~。優しいもんな、橘は」
「俺が女だったらぜってぇ惚れるわ」
あたしがいつも、ひとりでいたから。
だから気にかけてくれた。いつも優しくしてくれた。
あたしを……助けてくれた。
「咲下の母親死んだじゃん。だから余計かわいそうに思っていまは一緒にいるんじゃねーの?」
「だな。橘が咲下のこと好きとかないっしょ。だって沖縄で1組の女子振ったくらいだし」
お母さんが死んで……あたしが、かわいそうだから……。
だから橘くんは、あたしのそばにいてくれて。
優しくしてくれて。
そう……橘くんは優しい人だから。
そんなの前からわかってた。
わかってたのに。
なのにどうして、こんなに胸が苦しいんだろう。