逢いたい夜は、涙星に君を想うから。


「な、なに!?」



そして彼は自分の首元のネクタイをゆるめて、スルッとネクタイを取る。



「ネクタイの結び方。教えるけん」



「い、いいってば」



「ほら、じっとしぃ。よく見とって」



彼はあたしのブラウスの襟を少し持ち上げて、首元にネクタイをかける。



ネクタイの端と端を持って、彼はゆっくりと結んでいく。



「こうで、ここはこう……どうや?簡単やろ?」



「まぁ……はい」



「その顔は、わかっとらん顔やな」



彼はイスから立ち上がって、あたしの後ろに立った。



あたしの体を後ろから包みこむようにして、彼の両腕が前にくる。



「こうすれば、向きも同じで凜もわかりやすいやろ」



彼はあたしの手とネクタイを一緒に持って、もう一度ネクタイをゆっくりと結んでいく。



ふわっと……陽太くんの、いい香りがした。



石鹸とフルーツがまざったような、爽やかな香り。



「どう?覚えた?」



「あ、ありがと。覚えた」



あたしが横を向くと、陽太くんの顔が目の前にあった。
< 177 / 528 >

この作品をシェア

pagetop