逢いたい夜は、涙星に君を想うから。
くぼっちは菓子を食いながら、マンガを読んでいる俺に聞く。
「んで、元気なの?咲下は」
「え?」
「転校先の話とか、咲下と電話くらいしてるんだろ?」
「……いや、それが……その……」
「なんだよ?連絡とってんだろ?電話くらいマメに橘からしてやれよ」
そうしたい気持ちはめちゃめちゃあるんだけども。
「……咲下の番号知らない」
「……は?ケホッ、ケホッ」
くぼっちは驚いたようで、菓子をノドにつまらせて、苦しそうな顔をしている。
「大丈夫か?口から菓子の粉がめっちゃ飛んだけど」
「番号知らねーの!?」
「お、おう」
「だってさ、あんなに一緒にいたじゃん!」
「うん。家も知ってたし、学校で毎日会うし、だからいつでも会えると思っててさ。聞くタイミング逃したあげく、突然転校みたいな……ね?」
くぼっちは俺の頭を両手でガシッと掴み、俺の頭を振り回す。
「おまえ、ほんっとバカ!」
「言われなくてもわかってるよ」
「バカバカ……くっそ!100回言ってやるかんな!」
いつでも会える場所にいた。
教室に行けば、毎日会えた。
学校で会えなくても、咲下の家を知ってた。
最寄りのバス停も。公園も。
この街なら、咲下にいつでも会えた。
急に会えなくなる日が来るなんて、俺は考えもしなかったんだ。
「咲下の引っ越し先は?」
俺は首を横に振る。
「父親と住むって言ってたけど……」