逢いたい夜は、涙星に君を想うから。



「へぇー。女子って、そういうジンクス好きだよな」



「片想いってさ……つらいことのほうが多いじゃない?でも、そういうジンクスの言葉が、ほんの少しだけど自分に元気くれるよねっ」



そう言って吉野は窓の外を見つめた。



ジンクス……ね……。



俺の制服のポケットの中には、家のカギに付けた星砂のキーホルダーが入ってる。



咲下からもらった、咲下とおそろいのキーホルダー。



“星の砂って……幸せを呼ぶとか、願いが叶うって……”



そう笑顔で言った咲下を思い出していた。



この街から咲下がいなくなって、数ヶ月。



咲下はいま、どんな暮らしをしているんだろう……?



この街を離れるときに咲下が俺にくれた手紙には、父親と暮らすことになったと書いてあった。



咲下は、幼い自分と大好きな母親を捨てて出て行った父親と、いま一緒に暮らしてるんだよな……。



母親を亡くしたばかりで、悲しみも癒えないままで。



咲下がこれ以上、傷つかなければいいけど……。



「ねぇ、橘くん」



吉野の声で、ハッと我に返る。



「あ、なに?」



「更紗、消しゴム忘れちゃったみたいなんだけど……」



「俺のやつ使っていいよ」



俺はペンケースから消しゴムを取り出し、吉野に渡した。



「ありがと。また借りるかもしんないから、ふたりの席の真ん中らへんに置いてもいい?」



「いいよ」



黒板を見ると、いつのまにか授業が進んでいた。



俺は黒板の文字を慌ててノートに書き写していく。



「えっと……物体Aの高さは、斜方投射の軌道の式……」



俺は書き間違えて、消しゴムに手を伸ばした。



消しゴムを掴むと同時に、俺の指をぎゅっと吉野の手に掴まれる。
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