逢いたい夜は、涙星に君を想うから。
「でも兄弟がいるって……うらやましいな」
「咲下はひとりっ子?」
「うん。あたしの家も、離婚してるんだ」
「え?そうなん?」
「うん。うちはね、あたしが小学校のときに離婚して……あたしはお母さんに引き取られた」
高校生になって、自分から親の離婚のことを誰かに話したのは橘くんが初めてだ……。
「俺なんかに話してよかったの?」
「うん。橘くんも話してくれたじゃん。それに、あたしも。いまはもう平気だからっ」
そう言ってあたしは、ニコッと笑顔を見せる。
嘘をついた。
いまだって平気なんかじゃない。
お母さんのつらそうな様子を見るたび、平気じゃなくなる。
あたしはいつもそう。
弱いくせに人には強がって見せる。
本当の気持ちを誰かに話すのが怖いんだ。
「じゃあ、お母さんとふたりで暮らしてるのか?」
「うん、そう。お母さんには将来たくさん親孝行しないとっ」
「えらいな、咲下は」
「そんなことないよ」
橘くんは、あたしを見て微笑んだ。
「お母さんのこと、大切に想ってるんだな」
「あたしにとってお母さんは……」
目を閉じると、お母さんの顔が浮かぶ。
「お母さんは……あたし自身の一部なの……」
お母さんは、この世界にあたしを産んでくれて。
必死に仕事して、たったひとりで、あたしを育ててくれて。
何よりも、強く思うのは、
この世界で、あたしを心から愛してくれる人は
きっとお母さんだけ……。
「あたしが生きてるのは、お母さんのおかげだから……」
「そっか」
「うん。早く大人になりたい。お母さんをラクにさせてあげたいから」
「優しいんだな、咲下」
あたしは首を横に振った。
修学旅行の前日の夜、どこか不安そうだったお母さんの顔を思い出した。