逢いたい夜は、涙星に君を想うから。
「……なんで急に、咲下の話になんの?」
吉野から視線を逸らし、俺は手に持っていたコップのジュースをひとくち飲んだ。
「夏休み前からずっと、元気ないよね?咲下さんのこと?」
夏休み前にも、吉野に咲下のことを聞かれたのを思い出した。
俺とくぼっちが教室で話しているのを偶然聞いたらしく、俺が咲下を好きなことに、吉野は前から気づいている。
「橘くんの言葉を借りるなら……友達が困ってたら、助けるのはあたりまえなんでしょ?今日、助けてもらったから……更紗も橘くんのこと助けたい……」
「その気持ちだけで十分だよ」
「やっぱり更紗には、心を開いてくれないんだね……」
吉野は俺を見つめたまま、悲しげに微笑んだ。
「……咲下には……他に大切な人がいる」
「そぉ……なんだ……」
「うん。ずっと前から俺の片想いだった」
「橘くんの気持ちは伝えたの?確か夏休み前に、咲下さんに会いに行ったんだよね?」
「会いに行ったけど……何も伝えられなかった……」
「そう……。後悔してる?気持ち、伝えられなかったこと」
「どーだろ。わかんない」
答えはもう、わかっていたから。
俺が気持ちを伝えようと、伝えまいと、その答えは変わらないこと知ってたから。
咲下には大切な人がいて、俺の気持ちが届くことはない。
そうわかってるのに、いまも俺は咲下を……。
自分でもどーしたらいいか、ずっとわからないまま、時間だけが過ぎていく。
「咲下のこと、忘れられないんだよ」