逢いたい夜は、涙星に君を想うから。
「咲下……」
あたしを見つめる橘くんの優しくて低い声。
その曇りのない瞳に吸い込まれそう。
橘くんへの想いが溢れてく。
この想いを言葉に出してしまいそうなほどに。
好き―――。
――ザーッ、ザーッ……。
夜の静かな波音に包まれる。
――ピリリリリ……。
その時、橘くんのズボンのポケットに入っていたケータイが鳴った。
止まったかに思えた時間は、また動き出した。
「電話……出ないの?」
鳴り止まない着信音。
「ごめんな。誰だよ、ったく……はい?」
そう言って不機嫌そうにポケットからケータイを取り出し、電話に出た橘くん。
「なんだよ、くぼっち……え?いま?別にどこだっていいじゃん」
橘くんの電話の相手は“くぼっち”こと、クラスメートの久保寺(くぼでら)くんからみたいだった。
橘くんと普段から仲が良い友達のひとりだ。
あたしがテーブルの下から出ると、橘くんもケータイを耳にあて話しながら、立ち上がった。
「ほっとけよ。わかった。もう少ししたら部屋に戻る。あぁ、じゃーなっ」
橘くんは電話を切って、ケータイをポケットにしまった。