逢いたい夜は、涙星に君を想うから。
これは幻だと、そう思った。
記憶の中の橘くんが、
さっきからずっと、あたしの名前を呼んでいて。
だから、きっとこれも幻で。
あたしの手を掴んでいる彼は……いま目の前にいる彼は……
きっと、幻に違いなかった。
なのに……。
「……んあっ……くっ……咲下っ……」
力強く掴まれた右手の感触、腕の痛み……。
必死にあたしの名前を呼びながら歪む彼の顔。
幻なんかじゃ……
彼の姿は、幻なんかじゃなかった。
「……手……っ……離すなよ……っ……」
どうして……?
どうして……ここに橘くんがいるの……?
どうして橘くんはいつも
あたしのことを見つけるの……?
「……咲下……っ」
このままじゃダメ……!
橘くんまで落ちちゃう。
「……っ」
“手を離して”
そう言いたいのに、失ったままの声。
……助けて
誰か……助けて……!
橘くんまで死なせたくない。
あたしの右手を掴む橘くんの手を、あたしは左手で無理やり離そうとした。
「やめろっ」
彼の瞳を見つめて、あたしは首を横に振る。
「……絶対、助ける……諦めんな」
涙を流しながら、もう一度あたしは首を振った。
あたしがつらいとき、橘くんはいつも助けてくれた。
もう十分だよ。
ありがとう、橘くん。
お願い……この手を離して……。