逢いたい夜は、涙星に君を想うから。
崖から飛び降りて死のうとした咲下に、一体何があったのか。
どうして声が出なくなってしまったのか。
いま俺にわかるのは、咲下の心はもう限界だってことだ。
逃げたい、死んでしまいたい、
この世界を終わらせたい、消えてしまいたい。
すでに心は限界で、他には何も考えられなくて。絶望しかない。
過去の俺……あのときの俺もそうだったから。
咲下の理由はわからなくても、気持ちは俺にもわかるよ。
いま思えば……
咲下が転校してしまったときから、俺は不安でたまらなかった。
いや、違う。
不安だったのは、それよりもっと前からだったかもしれない。
当時のクラスメートたちからの咲下の印象は、ひとりでいることを好む、クールな女の子。
咲下は、自分から誰かに頼ったり甘えたりしない。
誰にも本当の気持ちを見せない子だった。
そのことを俺が強く感じたのは、咲下の母親が入院しているときや、母親の最期のときだった。
人前では、いつもシッカリしていて毅然とした態度だった。
かなり無理をしていたんだと思う。
どんなに悲しくても、どんなに苦しくても。笑顔を見せて、涙を必死に隠そうとしていた。
そんな咲下をそばで見ているのは、すごく苦しくて、もどかしくて。
誰にも言えない気持ちを話せる相手に、俺はなりたかった。
無理しなくてもいい、安心して泣ける場所を、俺は作ってあげたかった。
彼女の心は、まるでヒビの入ったガラス玉のようで。
触れただけで一気に割れて壊れてしまうのではないかと思うくらい、ギリギリのところにあったように感じていた。
だから、あの時からずっと不安で、ほっとけなくて。
心配でたまらなくて。
咲下が俺を救ってくれたように、今度は俺が咲下を助けたい。
守ってあげたいと思った。