逢いたい夜は、涙星に君を想うから。
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
あたしが目を開けたときには、誰かの胸の中にいた。
片腕で強く抱きしめられていた。
「ハァ……っ……ハァ……あぶねーっ」
頭の上から聞こえた声に、聞き覚えがある。
トラックが走ってきて、もうダメだと目をつぶった瞬間、
誰かがあたしの手を掴んで、その強い力で、あたしの体ごと引き寄せて助けてくれた。
「なんで……っ」
あたしを助けてくれたのは彼だ。
「なんで……橘くんがいるの……?」
息を切らしている彼が腕の力をゆるめた瞬間、あたしはその場に崩れ落ちる。
「咲下っ」
彼はしゃがみ込んで、あたしの顔をのぞきこむ。
「大丈夫か?」
あたしは小さくうなずく。
「……なにやってんだよっ!危ないだろ。死んだらどーすんだよっ」
普段は優しい橘くんが、あたしの肩を掴み、大声を出した。
「なんでここに……?どうして……?」
「咲下のことが心配だった。ずっと元気ないし……だからごめん。咲下のあと追いかけた」
もしかして橘くん……。
学校が終わってから、あたしの後ろをついてきてたの……?
面会時間が終わるまで、病院の近くで、
あたしのこと何時間もずっと待ってたの……?
心配して、あたしのこと、いつも見守ってくれてたの?
どうして……。
どうして、あたしなんかのために……そんなことするの……?
涙が溢れてくる。
「咲下……?」
「……もう……時間がないの……」
「え……?」
「……お母さんが……死んじゃう……」
助けて……橘くん……。
「……お母さんを……助けて……うわぁぁぁん……っ」
地面にうずくまり、泣き叫んだ。
いままで抑えこんできた思い、ひとりで抱えていた思いが、
涙となって溢れだす。
「ゆっくりでいいから……ぜんぶ俺に話して」
橘くんは、泣きじゃくるあたしの頭を優しく撫でてくれた。