逢いたい夜は、涙星に君を想うから。
「つーかさ、購買のおばちゃんが新商品めっちゃオススメしてきてさぁ、今日パン買いすぎちゃったんだよなぁ」
「ふふっ、そーなんだ?」
「いっぱいあるから。咲下にあげる」
橘くんは袋からいくつものパンを取り出し、缶ジュース2本を机の上に置いた。
ジュースも2本あるし……やっぱりあたしを心配して来てくれたんだね。
このパンの量も、ひとり分には思えない。
「……ありがと、橘くん。でもあたし、ちゃんと食べてるから大丈夫だよ?心配しないで」
「いや、別にそんなつもりじゃなくて……ごめん。もしかして腹いっぱい?」
「ううんっ」
「はーっ。よかった~。なら一緒に食お?」
橘くんの笑顔につられてあたしも微笑む。
「うん。じゃぁ、いただきます」
あたしの言葉に橘くんは笑顔でうなずいた。
本当はずっと食欲がなかった。
何も食べたいって思えなくて、食べなくてもお腹が全然空かなかった。
けど自分が具合悪くなったり倒れたりしたら、お母さんに会いに行けなくなる。1日だって無駄にしたくない。
だから無理やりにでも、口に入れた。
家にあるバナナを一口かじったり、ヨーグルトを少しでも食べれば、もうそれでお腹いっぱいになってた。味はなにも感じなかった。
でもこうして誰かと一緒にご飯を食べると、やっぱり“おいしい”って感じられる。
いままでは、あたりまえすぎて気づかなかった。
本当はそんな些細なことでさえ、幸せだったということを。