逢いたい夜は、涙星に君を想うから。
制服の上にコートを着て、首にはマフラーを巻く。
それでも北風は冷たく、凍えそうなほど寒い夜だった。
吐く息は白く、空へと消えていく。
夜の8時過ぎ、病院を出ると、
橘くんが自転車に乗って外で待っていた。
「咲下」
その声に、あたしは微笑む。
橘くんの顔を見ると、なんだか安心する自分がいる。
「こんな寒いのに……今日も待っててくれたの?」
「俺が勝手に待ってただけだから気にしないで」
橘くんはあの日からずっと、あたしを心配してくれた。
病院の面会時間が終わると、いつも外では橘くんが待っていた。
最初は、偶然近くに用があったからそのついでだとか、
友達の家がここから近くて帰りに寄ったとか、
橘くんはあたしに気を使わせないようにいろんな言い訳をしていた。
本当はあたしのことを心配して待ってくれてると知ってても、
彼の優しい嘘にあたしは騙されたフリをした。
あたしは橘くんに甘えてたんだ。
「咲下、手袋は?」
「学校に忘れてきちゃって……」
「じゃあ、俺の手袋つけな」
そう言って橘くんは、自分の手袋をあたしに渡す。
「いいよぉ。橘くんの手が冷たくなっちゃう」
「俺の手は冷たくならない魔法の手だって知らなかった?」
「ふふっ、魔法の手?知らなかった」
橘くんはあたしの手に手袋をはめてくれた。
あたしの小さな手には、少し大きい橘くんの手袋。
でも……あったかい……。