逢いたい夜は、涙星に君を想うから。
自転車にふたり乗りして、うちのアパートへと向かった。
頬を突き刺すような冷たい風。
夜空には、いくつかの星と三日月が見える。
まるで、小さな星をそばで見守っているかのような優しい月の光だった。
自転車の後ろで、橘くんの背中を見つめる。
あたしはその背中におでこをコツンとぶつけて、もたれかかった。
目を閉じて、息を吐き出す。
「橘くん……」
あたしはおでこを彼の背中につけて俯いたまま、小さな声で言った。
「明日は学校休んで、朝から病院にいくことにしたから……。夜もそのままお母さんの病室に泊まってくる」
「咲下……もしかして……」
「うん……昨日、お母さんの担当医師から……あと数日だって言われちゃった……」
走り続ける自転車。橘くんのコートがあたしの涙で濡れた。
「……っ」
橘くんに気づかれないように、声を漏らさずに泣いた。
いくら下唇を噛みしめても、止めどなく涙がこぼれていく。
泣きたくないのに。
橘くんの前でもう、泣きたくないのに。
涙を止められなかった。
「俺も明日一緒に行こうか?」
「……ううん……へーき」
声が震える。
「ひとりで大丈夫……ありがと……」
橘くん……。
そばにいてくれてありがとう。
いつも優しくしてくれて……ありがとう……。