逢いたい夜は、涙星に君を想うから。
そのあと、あたしの部屋で数学の宿題をしていた。
橘くんはあたしの宿題を手伝ってくれていた。
「橘くん、この問題ってどうやって解くかわかる?」
「うーんとこれは、ここを……」
問題を解いていると、それに集中できるから嫌じゃなかった。
ほんの一瞬でも、苦しみから解放される。
ふと部屋の時計を見ると、いつのまにか夜中の0時を過ぎていた。
「ごめんね、橘くん。こんな時間まで……」
「全然へーき。眠くないし」
その時、あたしのケータイが鳴った。
――ピリリリリ……。
いやな予感がした。
ケータイの画面を見ると、北十字病院からの着信だった。
「咲下……?」
あたしは橘くんの顔を見つめて、電話に出る。
「もしもし……。はい……はい、わかりました。いまから向かいます……」
電話を切って、ケータイを耳からゆっくりと離す。
「ごめん……橘くん……いまから病院へ行かないと……」
指先が震える。
まだ時間はあると思っていたのに。
明日、明後日と……あともう少しだとしても。
まだ時間はあると思ってた。
だけど、ついにこの時が来てしまったんだ。
「いますぐ行かないと……お母さんが……」
お母さんが……死んじゃう……。
「……わかった。一緒に行く」
橘くんはあたしの手首を掴んだ。
「行こう」
橘くんは、動揺するあたしの手を引いて立ち上がり、外へと連れていく。