逢いたい夜は、涙星に君を想うから。




☆琉生side☆




俺は、咲下がお母さんと過ごす最後の時を、病室の隅に立って見守っていた。



咲下はお母さんに最後まで泣き顔を見せなかった。



涙をこらえて、「お母さん」と呼ぶ声も震えてた。



それでも笑顔で最後までお母さんを見つめていた。



そんな咲下の姿を見て



いままでの咲下のことを思い出したら



胸が張り裂けそうだった。



お母さんの死を確認した後、咲下は医師にその場で頭を下げていた。



“ありがとうございました。先生のおかげでお母さん……最期まで苦しまずに眠りにつくことができました”



そう言って、彼女は深々と頭を下げていた。



涙を流さず、最後まで医師や看護師から落ちついた様子で話を聞いていた。



咲下は強い人……



なんて、そんなふうには思わない。



きっと、初めから強い人なんていない。



人はみんな、弱いものだと思う。



それでも強くなりたくて、必死に歯を食いしばって。



何かを我慢して、耐えて。必死に生きてる。



自分は強いんだって、何度も何度も言い聞かせて。



弱い自分に負けないように。



自分と戦ってる。



いまよりもっと、強くなるために。



強い自分になるために。



咲下もきっと、そうに違いなかった。
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