逢いたい夜は、涙星に君を想うから。


病室をあとにした咲下は、病院の外で、ひとり立ちつくしていた。



俺は後ろからゆっくりと近づいていく。



「咲下……」



呼びかけても、咲下は振り向かなかった。



「咲下っ」



「……橘くん」



振り返った咲下は、俺に笑顔を見せる。



俺は咲下の隣に立った。



「橘くん……星も月も……いつのまにか見えなくなっちゃったね……」



咲下は夜空を見上げて呟く。



「さっきまで見えてたはずなのに……」



咲下の横顔を見つめる。



「なぁ、咲下……」



「橘くん、ありがとねっ。橘くんのおかげで、お母さんの最期に間に合った。お母さんの顔を見て、手も握れた……」



咲下は俺を見て、無理してニコッと笑う。



「ありがとう、言葉じゃ足りないくらいホントに感謝してる」



「咲下……」



「あーあ!なんで星見えないんだろぉ。いま星が見たい気分なのになぁ……」



そう言って咲下はもう一度、夜空を見上げた。



俺は手を伸ばし、咲下の左手に触れる。



触れたその手をぎゅっと強く握りしめた。



「咲下……もういいんだよ」



もう……いいんだ。



咲下……。



「泣いていいんだよ」
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