TENDRE POISON ~優しい毒~
僕は去年、楠のクラスの担任だった。
何かに悩んでいることがあるらしく、楠はいつも下を向いていた。
元来、明るい性格なのに。
あるとき僕は「何か悩み事があるの?」と問いかけた。
楠はそのとき
「好きな人がいるけど……
絶対に許されない恋で」
と言った。
許されない恋……
「ふ、不倫はだめだよ!」
すると楠はぷっと吹き出して、
「やだぁ、そんなんじゃないよ」と笑っていた。
その笑顔が今でも離れない。
「雨……止まないな……」
まこがペンを止めて言った。
保健室の窓から見える雨空はどんよりと暗く、
まるで僕の心のうちを現してるように思えた。
それともこれから怒る悲劇を……
予兆して悲しんでいたのかもしれない。