TENDRE POISON ~優しい毒~
まあ、今はどうでもいいや……。
「ところでさ、先生って好きなひといる?」
向かいの席で参考書を開いて俯いていた神代が顔をあげた。
「好きなひと……?」
大きな目をぱっちり見開いて、そのガラス玉のような目にあたしを映し出す。
何か言いたそうな顔つきだった。
「急になんで?」
「だってクリスマスももうあと一ヶ月だよ。早く彼女作らなきゃとか思わないわけ?」
あたしはゆっくりと頬杖をついて目を細めた。
神代はまたちょっと困ったように笑って、口を開くと何か呟いた。
その声は聞こえなかった。実際、神代の声にはならなかった。
口をぱくぱくと動かせた後、
「―――……好きな人なんていないよ……」
静かにそう答えたのだ。
そして僅かに目を伏せる。
―――嘘……だな。
神代はあたしに嘘をついている。
それもこれほど分かりやすい態度で。
あたしは頬杖をついた指で口元を隠すと、ちょっと笑った。