TENDRE POISON ~優しい毒~
◆午前1時のリズム◆
◆◆◆◆◆◆◆◆
「先生好きな人はいる?」
と、鬼頭に問われた。
僕は顔をしかめて、
「好きな人はいないよ……」と答えた。
僕は鬼頭に一つ嘘をついた。
彼女は何でも見透かしていそうな漆黒の瞳を細めて、
「ふぅん」と呟いただけだ。
納得したような、してないような相変わらず何を考えているのかはさっぱりだ。
だけど。
「じゃあ気になる人は?」
鬼頭はさらに聞いてくる。
何だろう、今日はやけに饒舌だな。
「気になる人もいない」
僕は今度ははっきりと答えた。
「じゃ、立候補してい?」
鬼頭が頬杖をついて上目遣いで聞いてくる。
とても可憐で可愛らしい仕草だった。
思わずドキリと心臓が音を立てる。
だが、僕はその考えを振り払うように頭を振ると、
「冗談はいい加減にしなさい」
とちょっときつめに言った。
すると鬼頭はちょっと眉をしかめて、こちらを睨んできた。
鋭い視線に思わず居すくんでしまう。
「先生、あたしが今まで先生に好きだって言ったこと、あれ全部冗談だと思ってるんでしょ。いつもいつもはぐらかして、あたしは子供じゃないんだよ」
え?冗談じゃないのか…?
そんな顔をしていたのだろう。
「冗談じゃない。こっちは本気でぶつかって来たのに」
え?本気―――だった……