TENDRE POISON ~優しい毒~
その後、鬼頭は何事もなかったかのように、黙々と作業をしていた。
彼女は僕に好きな人がいるってどう思ったんだろう。
僕のことを諦めたのかな……
でも……正直まだ信じられない。
彼女が本気で僕を想っていてくれたなんて。
鬼頭の視線はいつも熱が篭っていたけど、何となくそれは恋する温度ではなかった気がするんだ。
もっと他の感情―――悲しみ、哀れみ……
憎しみ―――
そう、一番何に近いって問われれば憎しみだ。
でも僕は彼女に恨まれることなんて何一つしていない。
たぶん……
鬼頭が分からない。
何を考えてるのか分からない。
どう接していいのか分からない―――
今日もこの準備室はタンドゥルプワゾンが香ってる。
そう、それは毒―――
優しい毒だ