TENDRE POISON ~優しい毒~


「その顔は忘れてたでしょ」


鬼頭はいつもどおりちょっと口角をあげて笑った。


いつもどおり……


まるで昨日何もなかったような口ぶりだ。


僕はそのことにほっとした。それと同時にちょっと残念な気がした。


僕は最低だな……



鬼頭が僕のこと少しでも引きずってくればいい、なんて考えるなんて。




「……忘れてた。でも何で分かった?」


「先生って顔に出すぎ。すぐに分かるよ」


鬼頭はちょっと笑った。



その笑顔が眩しくて、僕は思わず目を逸らした。


鬼頭の白い首元に視線をやると、黒い髪が一束ほつれている。



「鬼頭、髪ほつれてるぞ」


「ほんと?どこ?」


鬼頭は首に手をやった。


だが、首と同じぐらい白い手は的が外れていた。




「ここ」


僕が鬼頭の首元に手をやると、鬼頭はびくりと肩を震わせた。




「あ……ごめ……」



僕は慌てて手を引っ込めた。





< 108 / 494 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop