TENDRE POISON ~優しい毒~
「その顔は忘れてたでしょ」
鬼頭はいつもどおりちょっと口角をあげて笑った。
いつもどおり……
まるで昨日何もなかったような口ぶりだ。
僕はそのことにほっとした。それと同時にちょっと残念な気がした。
僕は最低だな……
鬼頭が僕のこと少しでも引きずってくればいい、なんて考えるなんて。
「……忘れてた。でも何で分かった?」
「先生って顔に出すぎ。すぐに分かるよ」
鬼頭はちょっと笑った。
その笑顔が眩しくて、僕は思わず目を逸らした。
鬼頭の白い首元に視線をやると、黒い髪が一束ほつれている。
「鬼頭、髪ほつれてるぞ」
「ほんと?どこ?」
鬼頭は首に手をやった。
だが、首と同じぐらい白い手は的が外れていた。
「ここ」
僕が鬼頭の首元に手をやると、鬼頭はびくりと肩を震わせた。
「あ……ごめ……」
僕は慌てて手を引っ込めた。