TENDRE POISON ~優しい毒~
バカね。こんなことで胸を高鳴らせたりして。
らしくない。
犬を受け取ると、あたしは危うい手付きで何とか抱っこした。
小さいのに、意外と重さがある。
でも……
ふわふわで、あったかい。
「かわいぃ……」
ゆずはあたしの腕の中にいても、吠えたり暴れたりしなかった。
ついでに言うと震えたりもしていない。
心地良さそうに胸元に擦り寄ってくる。
「珍しいな。人見知りする子なんだけど、鬼頭が気に入ったみたいだね」
そう言ってゆずの頭を手馴れた仕草で撫でる。
ゆずは気持ち良さそうに目を細めた。
「こんなところで立ち話もなんだから、コーヒーでも飲まない?淹れるよ」
「ありがと」
あたしはゆずを抱っこしたまま、リビングに通される。
リビングは綺麗に片付いていた。
ソファと大きなテレビとサイドボードがある。
「適当にくつろいでて」
そう言って神代はキッチンに向かっていった。
あたしはゆずを床に置くと、素早く部屋を見渡した。
ゆずの可愛さに思わず本来の目的を忘れるところだった。
あぶない、あぶない。