TENDRE POISON ~優しい毒~
わからない―――
すべてが……
あたしは分からないまま乃亜の病室を後にした。
病院を出て駅に向かう途中、人ごみの中で梶の姿を見つけた。
寒そうに背中を丸めて首をすぼめている。
「梶!」
呼びかけると、梶は振り向いて最初はびっくりしたものの、にぱっと笑顔を返してきた。
「鬼頭!どうしたんだよ。お前授業が終わるとすぐ消えちまうから」
「ちょっと用事で。梶?何してんの?」
「俺?俺は暇だから、ぶらぶら」
「ふぅん。ね、暇ならカラオケ行かない?」
梶は目をぱちぱちさせてあたしを見た。
「え?マジで?」
「嫌ならいいけど」
「行く!」
梶は白い歯を見せて嬉しそうに笑った。
本来なら梶の姿を見ても無視してたけど、今は何か他ごとに熱中したかった。
だから、カラオケでもなんでも良かったんだ。
余計なこと、考えたくないから。