TENDRE POISON ~優しい毒~
「鬼頭、あの……」
神代が何か言いかけた。
あたしはその声を遮って、
「帰るよ。帰ればいいんでしょ」と踵を返した。
そのまま、梶の待つ部屋へ行こうとした。
「鬼頭!」
後ろから声がしてあたしは振り返った。
狭い廊下に各部屋から歌声が洩れてる。そんな騒がしい中でも聞こえる大きな声だった。
神代が蒼白な顔色して走ってくる。
可哀想になるぐらいその顔は神妙だった。
「あの……さっきの……」
あたしはうんざりしたように腕を組むと、壁にもたれかかった。
「男が好きだったなんて知らなかったよ。だからあたしが好きっていってもだめだったわけだ」
すべて納得がいったという風にため息を吐く。
神代は両手を軽くあげてあたしを制止しようという仕草をした。
「違う!」
「何が違うの?」
「勘違いしないでくれ。僕はゲイでも何でもない」
「ふぅん」あたしは目を細めた。