TENDRE POISON ~優しい毒~
そういうわけで、僕とエマさんは二人で抜けることになった。
他のメンバーたちから散々ひやかされたが、酒で気持ち悪い僕は全てがどうでも良かった。
カラオケを出て、僕たちはすぐにタクシーを拾うことにした。
夜も更けてるのに、大きい道路は車のテールランプが輝かしいほどだ。
酒でほてった体に外の冷気が気持ちいい。
「うちどこ?送っていくよ」
「え?いいです。さきに水月くんの家に行こう。あたしはどうにでもなるから」
かっこ悪いな……エマさんにも気を使わせて。
「そんなわけには」
「あ、あたしが心配なの。水月くんのことが…」
エマさんの真剣な目が僕を捕らえる。
黒い瞳が、鬼頭のそれと少し似ていた。
熱っぽい視線が似ていた。
鬼頭……
僕はエマさんの手を取ると、彼女を引き寄せ抱きしめた。
彼女からは、スイーツのような甘い香りがした。
だけど僕は鬼頭のあのタンドゥルプアゾンの香りが今でも忘れられない。
エマさんは鬼頭じゃない。
だけど似てる。
そう、似ていたんだ。
僕は強引にエマさんの唇を奪っていた。
鬼頭とのキスを思い出して……