TENDRE POISON ~優しい毒~



―――

――


鐘が鳴って現れた神代は若干顔色が悪かった。


しかもいつもはノーネクタイなのに、今日はワイン色の上品なネクタイをしている。


「先生~、今日はネクタイしてるんすね。何かあるんすか?」


目ざとい男子の一人が聞いた。


「あ~ホントだ。珍しいけど、ネクタイ姿もかっこいい♪先生、それ解いて~」


女子の一人が冗談とも本気ともつかない笑い声を上げた。


そんな冗談みたいな軽口を神代はさらりと流して…ってか頭に入ってないのだろうか。


「これは…自分を戒める為にであって……」


と、口の中でブツブツ。


「戒めるって何かやらかしたんですか?」ケラケラと男子たちが笑ってる。


ホントに。何やらかしたんだよ。


あたしは頬杖をついて心の中で突っ込んだ。





神代は、不思議と男子からも人気がある。


なんでだろ?


だってああ見えて結構ドジだし、天然だし、鈍感だし……





あ、あたしこう考えるとみんなが知らない神代を結構知ってるかも。


それが単純に嬉しいのか、それとも神代を陥れるための情報でしかないのか、



まだあたしには分からない。


そんなことを考えてるうちに授業は始まった。





「x3+64今の公式を因数分解して」


カリカリと鉛筆の走る音がする。


「……う。鬼頭!」


呼ばれてあたしは顔をあげた。


目の前に教科書を手にした神代が立っていた。


近くに来ると益々分かる、顔色の悪さが。



「僕の話聞いてた?」


「聞いてましたよ」






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