TENDRE POISON ~優しい毒~
準備室の小部屋をノックすると、
「どうぞ」と中から控えめな神代の声が返ってきた。
「失礼します」
入ると、机で神代は一人コーヒーを飲んでた。傍らにはいつか見たノートパソコンがあった。
そう言えばマイピクチャに保健医とのツーショットが入ってたね。
あれは単なる思い出の一枚じゃなくて、神代にとって大切な大切な一枚だったんだね。
「お弁当、もって来ちゃった。ここで食べてい?」
そう聞くと、神代はちょっと笑顔を浮かべて頷いた。
あたしは神代の向かい側の席に落ち着く。
お弁当を広げていると、
「昨日の……」と神代のほうから切り出してきた。
あたしが顔を上げると、神代は切なげに眉を寄せてあたしのほうをじっと見ていた。
一瞬、ドキリとした。
そんな顔しないでよ。
あたしの口から洩れそうになった一言。
あたしはその一言を飲み込んだ。
「……言ったでしょ。誰にも言わないって」
「……うん。君を信用してないとかそんなことじゃないんだ……。ただ…」
神代が口ごもったので、あたしはその先を促した。
「ただ?」
「僕の気持ちは軽い気持ちなんかじゃない。真剣なんだ。真剣に彼を好きなんだ」
神代の目はまっすぐで淀みなく、間違ったことを言っているのに堂々としていて、あたしはそれが少し羨ましかった。
神代の中にはそれほど強い信念があることが…羨ましかった。
でもそれと同時に神代はあたしでもなく、乃亜姉でもない人を選んだことが寂しかった。
でも……
間違ってるなんて誰が言える?
別に誰が誰を好きでもかまわないじゃない。
むしろ間違ってるのは―――あたしの方……