TENDRE POISON ~優しい毒~
「ふぅん。じゃあ保健室に行けば?口実になるじゃん」
あたしはちょっと笑った。
神代が目に見えて赤くなる。ちょっと慌てている様でもあった。
「大丈夫。かっこ悪いから」
「ふぅん、そんなもん?あたしだったら何としてでも口実を作って会いにいっちゃうけど」
「鬼頭ぐらい行動力あったらなぁ。白紙の答案用紙にはびっくりさせられたけど」
神代は軽く笑って頭をかいた。
あたしもちょっと笑った。
―――そう、あたしは何としてでも乃亜姉の仇をとる。どんな手を使ってでも。
「鬼頭は強いな」
ふいに神代が口にした。
なにを差して強いって言ってるんだろう。
あたしが告ったのに、ライバルとうまくいくよう応援してるってとこ?
だったら最初からお門違いだよ。
「別に……強くなんてないよ」
ただ、ちょっとだけ執念深いだけ。
あたしはそんな考えを吹き飛ばすように、たまご焼きをわざと神代の前に突き出した。
神代は面食らったように目をパチパチさせてる。
「ちょっとは食べたほうがいいよ。ほら、あ~ん」
「いや、ありがたいけど」
神代はかっこわるいぐらい慌てふためいてる。
「文句を言わずにさっさと口を開ける」
あたしが急かすと、神代は形のいい口を開いた。
たまご焼きを口に入れるともぐもぐと口を動かせて、ちょっとはにかんだように笑った。
「おいしい。鬼頭いいお嫁さんになれるよ」
ドキン……
前にも聞いたセリフ。
そうだ、明良兄だった。
でも明良兄に言われるよりずっと心に響く……
心臓がキュッとなってドキドキが止まらないのは何故?
あたし変だ。
どうやって神代を陥れようと復讐を考えてる一方で、神代の一挙一動に心臓が揺れてる。
あたし……どうしたんだろ?
そんなことをぼんやり考えてると、ピカッて何かが光った。
入口の方だ。
でも人の気配はしない。
なんだろ?気のせいかな?