TENDRE POISON ~優しい毒~
学校へ行く前に僕は楠のお見舞いに行くことにした。
早い時間だと、楠の知人に出くわすことがないから気が楽なんだ。
そんなことを考える僕はやっぱり卑怯なのだろうか。
思い出したように楠の見舞いに来たのだって、彼女を夢を見たからで深い意味はない。
病院の一階では場所が場所だけに花屋が早い時間から営業している。
僕はその花屋でチューリップを買った。
元気な頃の楠は肌が白くて可憐なイメージだった。そんな楠のイメージにぴったりだ。
楠の眠ってる個室の病室に行くと、相変わらず彼女は白い顔をして目を閉じていた。
元来が色白なのに、さらに病的な青白さを浮かべている。
楠に会うのは1ヶ月ぶりぐらいだ。
相変わらず頬は青白く、可哀想になるぐらい頬がこけている。
楠の両手は布団から出ていて、その左手首には痛々しい真一文字の傷跡があった。
そっと手に触れてみるとひやりとした感触を感じた。
「久しぶりだね。見舞いに来れなくてごめんね」
僕は彼女の青白い顔に語りかけた。
当然ながら返事はない。
ぐるりと病室を見渡す。
チューリップを入れられる花瓶はないかな?
ベッドのサイドテーブルには水差しと、体温計があるだけ。
引き出しはあったけど、タオルやらパジャマやらが詰め込んであった。
女の子のこんな私物を勝手にのぞいていいわけない。
僕は慌てて引き出しをしまった。
壁に目をやると淡いピンク色の総レースのワンピースがかけてあった。