TENDRE POISON ~優しい毒~
完全に人の気配が消えた廊下の片隅。
この辺は使ってない音楽室やら美術室やらがある。生徒たちからちょっと恐がられてる場所で今は不良のたまり場になってる。
古い美術室の前で明良兄はようやくあたしの腕を離してくれた。
代わりに、
「これ!どうゆうことだよ!」
と一枚の紙を見せてきた。
その一枚の紙はどうやらホームページの一部を印刷したものだった。
あたしはその紙を受け取って覗き込み、目を見開いた。
紙の一面にはあたしが卵焼きを神代に食べさせてるシーンがアップで映っていた。
「禁断の恋!イケメン数学教師と秀才美少女」と大げさな見出しを見てあたしはそれを読み上げた。
あの時の不自然な光は、フラッシュの光りだったんだ。
でも、
「何これ。もっとまともな見出しを考えられなかったの?」
あたしが取り澄まして言うと明良兄は苛々したように腕を組んだ。
「お前、何で平静でいられるんだよ。これがどうゆう状況か分かってんの?これが校内に行き渡ってんだよ!」
「分かってるよ!」
あたしも思わず怒鳴り返していた。
誰かに何かを怒鳴るなんて始めてのことだ。
そう、あたしだって平常心ではいられていない。
二人の関係を暴いて、神代を教職の席から引きずりおろしてやるとは考えてるけど、今はまだその時期じゃない。
それが最適な方法だと判断するにはまだ早い。
あたしにはまだまだやるべきことがたくさん残ってる。
まだまだ傷つけ足りない―――