TENDRE POISON ~優しい毒~
「完了」
あたしがにっこり微笑んで明良兄を見た。
明良兄は少し呆れたように肩をすくめて、
「よくやるよ」と呟いた。
「ま、俺としても雅が退学にでもなったらいやだったから良かったけど」
少し照れくさそうに鼻の頭を掻く。
「簡単には退学にならないよ」
あたしはパソコンの電源を切った。
「ホントに?」
気がつくとすぐ近くに明良兄が立っていた。
ホントに近くだったからびっくりして、思わず後退した。
「ならないって。乃亜姉のためにも」
「俺が言ってんのは、ホントにあいつとは何もないのか?ってこと」
いつになく真剣な目。切れ長の形の良い目の底で何かが光っていた。
「何もないって。そこどいてよ。次、授業行かなきゃ」
あたしは明良兄を押しのけて、ドアに向かおうとした。けど、その手を明良兄が掴む。
明良兄はあたしを引き寄せると、耳元でそっと囁いた。
「雅、ミイラ捕りがミイラになるなよ」
ぞっとするぐらい低い声。
怒気を含んだその声にあたしはほんの少し身震いを覚えた。
「大丈夫だって!あたしを信じてよ」