TENDRE POISON ~優しい毒~
『1-Bの鬼頭、鬼頭 雅至急職員室に来るように』
鐘がなるとほぼ同時にマイクを通して放送で担任の声が響いた。
あたしと明良兄は同時に顔を見合わせた。
「きたか」
「雅、大丈夫か?」
明良兄がさっきの怖い顔を消し去り、眉を寄せて心配の表情であたしを見た。
「大丈夫だって。だって何も悪いことしてないんだよ。明良兄は心配しすぎ」
あたしはちょっと笑って何でもないように手を振った。
ホントはちょっと不安なんだ。何もないって話がどこまで通じるのか。
でもそんなこと明良兄には言えない。
あたしはなんでもない素振りで今度こそ明良兄と別れてパソコン室を出た。
―――
呼んでいたのは、担任ではなかった。
職員室に行くと、あたしは校長室へ行くよう言われた。
初めて入る校長室。
大きくて立派な机に、棚には部活のトロフィーや楯が飾ってある。
校長先生と面と向かって話すのは初めてだ。
口ひげを生やした小さなおじいちゃんだった。
怖い感じはしなかった。そのことにほっとする。
トントン、とノックの音がして、
「失礼します。遅くなりまして」と神代が顔を出した。
顔色が悪い。
ま、無理もないか。