TENDRE POISON ~優しい毒~


踊り場にかかったガラス製の額縁に鬼頭は打ち付けられた。


何でこんなところに額縁があるかって?


過去の美術部員の作品が飾ってあったのだ。


その額縁は総ガラスでできて、何かの大賞を取ったとかで恭しく飾ってあった。




ガラスが割れる派手な音がして、鬼頭がずるりとその場に膝をつく。




「鬼頭―――!!」


僕は叫んで、階段を駆け上った。


鬼頭を額縁に打ち付けた女生徒は、むろんそうなることを予想していなかったのだろう。


何が起こったのか分からないという感じで呆けていた。


顔色を真っ青にして一瞬僕を見やる。目が合うと、


「やば!!行こっ」何年何組の生徒か確認する暇もない。女生徒たちはバタバタと足音を立てて足早に去ってしまった。




鬼頭のしゃがみこんだ周りの床は無残に砕け散ったガラスの破片が落ちている。



「鬼頭!!大丈夫か!」


肩やスカートにかかったガラスで鬼頭がさらに怪我をしないよう、僕は慎重に彼女を抱き上げた。


彼女の制服のブレザーは赤く染め上げられており、袖からはおびただしい血が流れていた。


「鬼頭!」


僕は彼女を抱きとめると、彼女はゆっくりと顔を上げた。


白い頬に薄い切り傷があるが、どうやら顔や頭は無事なようだ。




「せんせ……いた……い」



鬼頭はうつろな目で僕を見上げてきた。



こんなときまでも、鬼頭は芳しいまでのタンドゥルプアゾンを身にまとっている。



それが今は少しだけ疎ましい。





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