TENDRE POISON ~優しい毒~
神代の登場で一瞬気が緩んだんだ。
ヒートアップした先輩に、踊り場にかかってるガラス製の額縁に打ち付けられた。
結構な勢いだ。
ガラスが割れる激しい音がして鋭い痛みが肩やひじ、腰に感じた。
一瞬―――何が起こったのかわからなかった。
ただ、
「鬼頭!!」という神代の叫び声を聞いて、
あたしは自分の手のひらをみつめたんだ。
そしたら手のひらが真っ赤に染まってた。
血―――……
それからじわりじわりと痛みがやってきた。
不思議だね。
あのとき乃亜姉の手首から流れた血と同じ色をしてたんだ。
あたしの血はもっと汚れて黒くなってると思ったら、
乃亜と一緒だったんだ。
遠くで神代が「ごめん……」と小さな声で囁いているのが聞こえた。
それは夢か現かあたしには―――分からなかった。
―――それからが大騒ぎだった。
保健医が駆けつけてきて、応急処置をしてくれたけど血は止まらなくて、救急車が来た。
担任や教頭、その他手のあいた先生たちもかけつけて場は騒然となった。
救急車には保健医が同乗した。
保健医も珍しく表情を険しくして、何やら専門的な言葉で救急隊員と話し込んでた。
さすが。だてに保健医をやってるわけじゃなかったんだね。
それからの意識がない。