TENDRE POISON ~優しい毒~
いつになく優しい手付きにあたしは拍子抜けした。
厄介ごとに巻き込んで!とか言って怒鳴られるかと思ったのに。
「3週間後に抜糸だ。それまでは安静にするように。あと、入院は必要ないらしいぜ。このまま家に帰るか?送ってくよ」
あたしが何て答えようか迷っていると、あたしの手を握った神代の肩がぴくりと震えた。
「……ん」
小さく身じろぎして、神代が目を開けた。
横たわったままのあたしと目が合うと、神代はがばっと起きだした。
「鬼頭!大丈夫か?」
「うん……
ずっと……ついててくれたの?」
神代は心配しているのか、悲しんでいるのか複雑な表情を浮かべて小さく頷いた。
「ごめん……僕のせいで……」
「お前に傷を負わせた生徒はすぐに見つかった。とっつかまえてしっかり説教してやったよ」
と保健医が、ふんと鼻を鳴らした。
あたしは二人を見比べると、
「別に……先生のせいじゃないよ」とそっけなく答えた。
神代の悲しい顔なんて見たくなかったから。
優しいその顔が悲しみに曇った表情を直視できなかったから、あたしは彼から目を逸らした。
だって向こうから先に手を出してきたと言っても、こっちも手を出したのは間違いないし。
見ようによっちゃ過剰防衛だともとれる。
あたしは押し黙った。
すると神代は少し力を入れてあたしの手を握ってきた。
「鬼頭、しばらくうちに来ないか?」