TENDRE POISON ~優しい毒~
「うん。行く」
あたしは返事を返した。
「鬼頭!」
保健医が怒鳴った。
あたしは保健医の怒り顔を見据えた。
「だってあたし独りで不安なんだもん。大人の人がいればそれだけで安心できるし」
保健医は腕組みをして、片方の手で額を押さえた。
「ったく。水月もどうかしてるよ。言い出したら聞かない頑固なところは昔から変わってないな。
でも、今度二人でいるところを見られたらお前どうするんだ?もう学校にはいられなくなるぞ」
神代は保健医を見上げると、あたしの手を一瞬強く握ってそっと離した。
まるで見えない決意をあたしに伝えるかのような仕草だった。
「そのことでちょっと話が……」
立ち上がると、神代は保健医を病室の外へ促した。
何だよ?とぶつぶつ言いながらも保健医は神代に言われるままに外へ足を向けた。
「鬼頭、ちょっとまこと話があるんだ。すぐ戻るから」
とそそくさと二人して部屋を出て行ってしまった。
何?話って。二人で何こそこそしてんのよ。
そう聞きたかったけど、今のあたしにそんな気力残されてなかった。
二人が何話してるのか、なんていいや。
あたしは布団を顔まで引き上げた。