TENDRE POISON ~優しい毒~
「ただいま。明良兄……」
そっとリビングのドアから顔を覗かせると、ソファに座って腕を組んでいた明良兄がぱっと顔を上げた。
「雅!?大丈夫なのか?」
切羽つまったように表情を緊迫させて走ってくる。
「……うん、大丈夫」
あたしは傷の具合と、ことの成り行きを手早く明良兄に話して聞かせた。
行くな!って言われるのを覚悟で。
だけど明良兄の答えは、
「行くなっつーってもいくんだろ、お前は」と言いながら顔を背ける。
「……いいの?」
「いいわけないだろ!」一言怒鳴ってあたしに顔を戻す。
「でも俺はお前を止められない。何でか知らないけど、お前を今止められるのは俺じゃなくて誰かでもなくて、お前の中に住み着いているたった一人しかいないんじゃないかって気がする」
「あたしの中に住み着いてるたった一人……」
それって乃亜姉のことかな……?
明良兄は困ったように前髪をぐしゃりとかきあげた。
「それにお前を止めて、もしお前が乃亜みたいになっちまったら。それこそ俺やり切れない」
「明良兄……」
「だから止めない。行ってこい。だけどな、これだけは言っておく。
何かあったら絶対俺を呼べよ。俺が必ず飛んでいくから」
うん……。
明良兄……ありがとう。
明良兄……乃亜姉、見てて。
あたしが必ず復讐を遂げる。
何があっても。