TENDRE POISON ~優しい毒~
僕は両の手のひらを広げてじっと見つめた。
怖かった。
血だらけになった鬼頭を見たとき、一瞬心臓が止まるかと思った。
僕は楠が自殺未遂をした現場を見ていない。
だけど、鬼頭の姿が楠に重なった。
助けられなかった楠の姿を僕は鬼頭に重ねているのだろうか。
それでもいい。
僕のせいで誰かが傷つくのはもうたくさんなんだ。
僕は自分の小指を見つめた。
鬼頭は……
絡めた小指に赤い糸を見たんだ。
血の色をした―――赤い糸を……
鬼頭と僕は赤い糸で繋がっているのだろうか。
今、僕はどんな顔をしていたんだろう。
まこが心配そうに僕の顔を覗き込んできた。
「楠の自殺未遂も、鬼頭の事故もお前のせいじゃない。お前のせいじゃないんだ」
こんなときでさえ眉を寄せて、真剣なまこのその目を見ているとどうしようもなく気持ちを伝えたくなる。
不謹慎だと思っていても……
僕は、誰かにこの苦しみを救って欲しいだけかもしれない。
それがたまたま僕の一番近くにいるまこなんじゃないかな。
もしかしてこれは錯覚なんじゃないか。
でも錯覚なんかじゃないって信じたい。
「お待たせ。荷物持って来たよ」
鬼頭の声で僕は我に帰った。