TENDRE POISON ~優しい毒~
ピザが届いても、僕はまったく手をつける気になれなかった。
まこはいつもどおりの食欲でピザを口に運んでいる。
鬼頭は怪我のしていない方の左手で、食べるスピードは遅いが、それでも何とか食べている。
僕の食欲は全く進むことなく、傍らに置いたビールだけがやたらと進む。
飼い犬のゆずだけが僕の周りを物欲しそうにいったりきたり。
「お前、飲んでばっかじゃん。ちゃんと食えよ。胃を壊すぜ」まこが咎めるように僕を見てピザを取ってよこす。
「そうだよ、ちゃんと食べなきゃ。ただでさえ細いんだから」
と僕の向かい側の鬼頭も軽く笑った。
鬼頭……
いつもどおりだ。良かった。
「こいつ、細く見えるけど意外と筋肉あるぜ。細マッチョっていうの?」とまこ。
「細マッチョ?先生が?うけるっ(笑)」
鬼頭は声をあげてからからと笑った。
いつもどおり……というよりいつもより上機嫌にさえ見える。
ゆずがいるおかげかな?鬼頭はゆずが可愛くてしかたないみたいだ。
ずっとゆずを撫でて、時折ゆずで遊んでいる。
沈んでるのは僕だけだ。
と言うよりも、鬼頭とまこ。意外に息が合ってるように見えるんだけど。
僕は向かい側に座る楽しそうな二人の姿を見ると、何故かお似合いだと思って、そしてそう思った自分にちょっと苛々を募らせる。
僕は、一体どうしたというんだろう。