TENDRE POISON ~優しい毒~
夜も11時を過ぎると、まこはピザの残骸を片して帰っていった。
僕はと言うと、すきっ腹に飲んだビールが応えて視界がふらついていた。
目の前の鬼頭はふわふわと欠伸を漏らしている。
「そうだ、寝るとこ。鬼頭、僕の寝室使って?散らかってるけど」
僕はのろのろと立ち上がると、ふらつく足取りで寝室のドアを開けた。寝室に招き入れる女の子は鬼頭で三人ほど。
一人は昔一時同棲していた女の子、一人は……エマさん。最後の一人が鬼頭だ。
寝室の灯りをつけることはしなかった。散らかっている部屋をあまり鬼頭に見せたくない。
セミダブルのベッドが一つ。クローゼットとベッドのサイドテーブルだけの簡素な部屋だったが、ベッドの布団は起き抜けのままになっていたし、床には車の雑誌が三冊ほど散らばっていた。
僕は布団を整え、床に散らばった雑誌を拾い上げた。
「散らかってるってどこが?きれいじゃん」
鬼頭は軽く笑った。
僕も無言で笑い返した。
「男の人の部屋ってもっと散らかってるもんでしょ?先生の部屋は綺麗だよ」
そう言ってベッドの端に腰を下ろす。
鬼頭がいる寝室は、ひどく違和感があった。絶対に呼ぶことがないと思っていたから。それと同時に軽いデジャヴュを感じる。
鬼頭に似たエマさんも……同じようにベッドに座っていたから。
僕はその考えを振り払うように頭を振った。
そのせいで頭がくらりときた。アルコールが回ったようだ。
ぐらりと体が傾いて、僕は足を滑らせた。