TENDRE POISON ~優しい毒~
「……!」
僕は言葉を呑んだ。
鬼頭は僕の背中を優しく撫でさすった。
ひんやりとした指先が僕の背中を上下する。とても落ち着く感触で、安心した。
安心して……気が緩んだ。
「先生……?震えてる?」
「鬼頭……ごめん、ごめんな……」
ちゃんと話してるつもりなのに、声が切れ切れになる。
僕は鬼頭に見られないよう顔を背けて、初めて彼女の前で涙を流した。
涙を流すなんて、なんて久しぶりだろう。
楠が自殺未遂をしたとき以来だ。
僕は涙を流さない。まこの前でさえも。なのに、何で今日はこんなに素直に自分の感情を吐き出してしまうのだろう。
教え子を相手に。
彼女の手があまりにも優しくて、安らぎを覚えたから……
「……怖かった。鬼頭が……楠と重なって。僕はまた何もできなかった」
僕は鬼頭から顔を背けているので彼女の表情が分からない。
けれど、すっきりとした無表情でいるに違いない。そう思ったんだ。
それぐらい、彼女の次の言葉がつるりとしていて感情を読み取ることができなかったのだ。
「うん」
鬼頭はたった一言、そう呟いただけだった。