TENDRE POISON ~優しい毒~
「ありがと。気持ちだけ受け取っとくよ。今日は疲れたからもう寝たいんだ」
あたしは適当な嘘をついてごまかした。
『そっか。そうだよなぁ。今日は色々あったもんなぁ』と梶も納得してる。
「ごめん」
ホントにごめん。ホントのこと言えなくて……
梶にはたくさん隠し事してる。隠すって楽じゃないね。
『や!お前が謝ることじゃねーよ。まぁゆっくり休めゃ』いしし、と明るく笑って
『じゃ!』と短く返事が返ってきた。
通話は切れた。
梶……いいやつ……
ケータイをパチンと閉じると、
「なぁに、こそこそしてんだ?」
と保健医の声が背後で聞こえた。
びっくり!……した。だって全然気配を感じなかったもん。
保健医は腕組みをして、壁にもたれ掛かってる。
「友達と電話。心配してくれてたから」
別に隠すことじゃないよね。だってやましいことは何一つしてないし。
「ふぅん」
保健医は納得していない様子であたしをじろじろ見ている。
「何を勘ぐってるのか知りませんけど、あたしは何もやましいことなんてしてません。良ければ発信履歴でも見ます?」
あたしは挑戦的に保健医を睨みつけ、ケータイをずいと前に出した。
「いんゃ。いいよ。めんどくせぇ」
なんだそりゃ。
あたしの行動を怪しんでるんじゃないの?
「俺、帰えるわ。水月に大体のことは説明したけど、何かあったら呼び出してくれ」
「そう……ですか……」
保健医は意味深にふっと笑うと、
「何?寂しいの?」と銀縁のメガネをちょっと直し、顔を近づけた。
「まさか」あたしは笑い飛ばしてやった。
あたしは保健医のことあまり知らないけど、どう反応すればこいつが食いついてくるのか大体分かった。
恋を知らないウブな女を演じるのならこいつは落ちない。興味ない振りして、でも好意を持ってる難しいそぶりを見せなきゃ。
プっと保健医は吹き出した。
「やっぱおもしれ~。お前」
ほらね。