TENDRE POISON ~優しい毒~
保健医を送り出してあたしはリビングに戻った。
リビングでは神代がテーブルの上の食器を片していた。
カチャカチャと言う小気味良い音が響いてる。
「あ……ごめん。任せちゃって」
「いいよ。まこは帰った?」
「うん」
取り皿を重ねながら、
「あのさ」と神代が口火を切った。
あたしはソファの前に座り込んで目だけを上げた。
神代は食器を片付ける手を休めてちらりとあたしを見たけど、すぐに視線を外した。
「鬼頭とまこって仲が良いよね」
プっ!
あたしは吹き出した。文字通り。
だって面白いほど分かりやすく食いついて来るんだもん。
よっぽど好きなんだね。保健医のことが。
「やぁだ、先生。妬いてるの?大丈夫だって、先生からとらないから」
今はね―――
「や、妬いてなんかないよ!ただ、まこはあんまり人を寄せ付けないから、ちょっと気になっただけ」
「ふぅん」あたしは立てた膝の上で頬杖をついた。
「そう言う意味ではまこと、鬼頭は似てるのかな」
神代は黙々とテーブルの上を片付けている。その横顔をあたしは見つめた。
長い睫が瞬いて、神代が瞬きする度に何かの感情が目から流れ落ちているように……見えた。
あたしは神代の気持ちが理解できない。
好きな相手が同性だとか、そういう気持ちじゃない。
乃亜姉を死に誘うほど絶望させるもの。
神代にここまで哀しい顔をさせるもの。
それは恋―――
あたしはまだ恋を知らない―――