TENDRE POISON ~優しい毒~
「止めなきゃって思っててもなかなか止められないんだ。禁煙で2回失敗した。鬼頭はだめだよ。タバコなんて吸う大人になっちゃ」
くすっとあたしは笑みを漏らした。
「説得力ゼロ」
「だよね」どこか投げやりな感じで、神代はぐいとビールを飲んだ。
缶に直接口をつけて豪快に煽るその姿に、今までにない男らしさを感じる。
そう、こいつは男なんだ―――
それでもってあたしは女。
それは変えがたい事実で、今男と女が一つの部屋に寄り添って座っている。
だけど神代は保健医を好きで、あたしは神代のことを好きじゃない。
だから何も起こらない。これからも……
そういう意味では世界一安全な場所だと言えよう。
だけど、ここはあたしにとって安全な場所ではなく、敵地だ。
だから気を許してはならない。
そしていつか必ず復讐を遂げるために、あたしはまだ本性を隠し通して、復讐心を眠らせておかねばならない。