TENDRE POISON ~優しい毒~
神代が何本目かのビールを開ける頃、あたしはふわふわと欠伸を漏らした。
梶の言う通り、今日は色々あって……疲れた。
眠そうにしているあたしを気遣ってか、神代は自分の寝室を勧めてきた。
前は入ることのなかった寝室。
特別な女しか出入りすることがない―――寝室。
特別……
ドキリ……とした。
勘違いしちゃだめ。あたしは神代にとって特別でも何でもない。神代はただ、あたしを心配だから、大切な生徒だからここに入れたんだよ。
神代はこれから他の女を招くことがあるのだろうか。
あるいは保健医だったりするのだろうか。
どっちでもいい。そんなことを想像するとちょっとイラっとくる。
「散らかってるけど」と神代は言ったけど、部屋は綺麗に片付いていた。
部屋の真ん中にセミダブルのベッドが一つ。起きぬけなのか布団が上のほうで絡まっていた。神代は布団を慌てて直す。
あたしはその間部屋をぐるりと見渡した。
左手に据付のウォークインクローゼットがある。そこから衣服の袖みたいのがはみ出していた。
どうやら今朝は慌しかったみたい。慌てている神代の姿が安易に想像できる。
それが何だか可愛い。
そう思ってはっとなった。何考えてるんだ、あたしは。
その考えを吹き飛ばすように、あたしは床に視線を這わした。
車の雑誌が三冊ほど転がっている。
「車、好きなの?」あたしが聞くと、神代は慌てて雑誌を取り上げた。
「とてもじゃないけど今は買えないから、見るだけね」
神代は恥ずかしそうに笑った。
やっぱり……可愛い。
そう思うのは変なのかなぁ。