TENDRE POISON ~優しい毒~
「先生……?震えてる?」
なんで……?
あたしはそっと問いかけみた。
「鬼頭……ごめん、ごめんな……」
神代は消え入るように、小さく……ホントに小さく切れ切れに言葉を返してきた。
神代の背中の震えは止まらない。
何かホントに怖い思いをした子供のようだ。
我知らず……あたしはその背中をそっと撫でさすっていた。
子供をあやす母親のそれに似た手付き。愛情を込めて……
「……怖かった。鬼頭が……楠と重なって。僕はまた何もできなかった」
最後の方は言葉がかすれて消えかけていた。
それでもあたしにははっきりとその言葉が届いた。
神代……乃亜姉のこと覚えててくれたんだね。
それは乃亜に対して悔恨の意を感じてるから?それともあたしに対する懺悔なの?
何で泣いてるの?何が悲しいの?
何を恐れているの……
皮肉だね。
あたしはこの瞬間、神代が乃亜のことを少しでも覚えていてくれたことにちょっと嬉しさを覚えたんだ。
でもあたしはこの瞬間、全ての答えを知ってしまった。
―――あなたが、一番傷つく方法も……
「……怖かった。鬼頭が……楠と重なって。僕はまた何もできなかった」
「うん」
神代がどんな言葉を欲しがってるのかわかってたけど、あたしは気づかないふりをした。